さよならのカウントダウン

どうして楽しい時間は過ぎるのがこんなに早いんだろう、そんなことをぼんやり考えていた。苦しくてつらい時間はあんなに長く感じるのに。好きな人と過ごす時間は、まるで一瞬の魔法のように過ぎて行ってしまう。今こうして繋いでる手も、あと少ししたら解かなければならない。デートの後、彼はどんなに遅くなっても家まで送ってくれる。いつも家の前の公園でさよならをするのがわたしたちの決まりだった。この道の角を曲がれば公園が見えてくる。そこを通る度、まるでさよならのカウントダウンをしているような気持ちになって、より一層寂しさが襲う。

公園が見えてきたところで、いつものように気を使って「ここでいいよ」と手を解こうとした。それでも彼は強く握ったまま手を離してくれない。戸惑って彼の方を見ると「ごめん」、と小さく謝ってから言葉を繋いだ。「手離したらさ、さよならせなあかんくなるから嫌や」、そう言って繋いだ手に視線を落とした。さよならのカウントダウンを感じていたのはわたしだけじゃなかった。上手く言えない言葉の代わりに、彼の手を強く握る。永遠に続いて欲しいと願うこの時間は、この手を解いたら終わってしまう。それならばどうかあともう少しだけ。「―――なあ、ちょっとだけ遠回りして帰らん?」、彼がふわっと笑った。「うん」、そう頷いて空を見上げると、夕焼けの紅はいつの間にか宵の藍に変わっていた。